2012年08月11日

少年兵 ベトナムから来た男

  「店を休業させて放っておくと、恐怖のグーグル大王が降ってきて大惨事がもたらされる」
 WEBに詳しい友人にきつく言われたので、たまにブログや商品欄を更新します。悪くするとリンボー行きになって戻れなくなるらしい。
 
 そういうわけで、今日は「こんな人生でも自由に生きられるのはラッキー」という前向きなのか、そうでもないのかよくわからない内容の駄文です。ただし長い!開いただけで読む気がなくなりそうだ。止めようかとも思ったが、もう書いたものだから載せます。時間を返せとかはなしで。

 筆者がアメリカに来たばかりの頃にタイ料理屋でウェイターのバイトをしていた時の話。そこにはJという30代のベトナム人のコックがいた。よく笑う陽気な男で、休憩時間になると仲間に手品を見せたり、冗談を言って笑わせたりしていた。時には、ベトナムの料理を見せるといって、自分で持ってきた麺と店の食材を使ってフォー(ライスヌードルスープ)を作ることもあった。化学調味料をどんどん入れるのが本場の露天のフォーだと言って笑っていた。
 ちなみにアメリカのチェーン系ベトナムレストランで出てくるフォーには大体の店では大量の化学調味料が使われていて、独特の舌の根元にへばりつく旨み感と食後の喉カラカラ感が味わえる。薬の力なのか中毒性があって、たまに無性に食べたくなるときがある。チャイニーズのテイクアウトチェーンも同様の魔力を持っているが、どの店でも「化学調味料一切なし」のメッセージが店内に掲げられている。表示法の抜け道があるだけで、結局は同じ物をバンバン振りかけているのだ。筆者がバイトしていた店でも専用の化学調味料部屋に多種類がラベルを貼られて管理されていた。客がその有無を聞いてきたら、もちろん笑顔で『No!!』

少年兵 ベトナムから来た男



 脱線したが、Jはそのうちに相棒とベトナムレストランを出すと言っていて、よく自分のビジネスプランについて語っていた。時には日本でやったら儲かるのかと真剣に聞いてくることもあった。筆者はJと特別に親しかった分けではなかったが、暇なときに一緒になると話を色々する相手だった。
 
 ある日、筆者とJ他数人が裏で休んでいると、誰かが雑誌の中程のガンの広告ページを見てあれこれと言いはじめた。ライフルやハンドガンが沢山載っているページだった。その時にJが極自然にAK型のライフルをさして、これは良い銃だと言った。すかさず誰かが何で分かるのかと聞くと、Jはそれを使っていたからと答え、当時の話をはじめた。

 70年代終わりから80年代末まで続いたベトナムと隣国カンボジアの戦争(書くために調べた、覚えてません)。ベトナム戦争で親を無くした14歳のJは少年兵として部隊に参加。カンボジア領内(当時ベトナム占領下)のジャングルに入り、4年か5年を反ベトナム勢力との戦いで過ごしたという。AKはその時の経験からで、壊れなくて一番良い銃だったそうだ。戦闘そのものは毎日あるようなものではなく、主に移動や集落での補給で時間がすぎる。Jのように正規の兵隊ではないが参加している子供は他にも沢山いたという。顔ぶれは多少変わるが、行動は大体見知った者同士のグループであった。
 その中にJを気に入って特に面倒を見てくれる大人の兵士がいて、いつもの手品はこの兵士が教えてくれたものだった。その兵士はある日別のグループと行動したまま戻らず、後に戦死したことを聞かされたという。アホというか素直なウェイターの一人がJに人を殺したのかとモロな質問をすると、皆で撃ちまくるから誰の弾が当ったのかは分からないと答えていた。
 その時以降は特に同じ話題になることもなく、筆者も深くは聞かなかった。両親と親代わりの兵士を亡くし、沢山の血なまぐさい現場を見てきたら、きっと思い出したくないことばかりだろう。

 しばらくしたある日に、若い白人の男が料理に虫が入っていたと騒ぎ、たまたまキッチンにいたJに、虫でそこまで上がるかと思うようなテンションで絡み始めた。男はJに向かってアジア人を侮蔑する言葉を吐いて、盛んにののしっていた。Jは数度謝った後はただ黙って聞いていたが、すぐにタイ人のウェイター達が集まって事態は収束する様相へ。筆者は多勢に無勢で大事になることはないのが分かるので、昼飯を食い続けて見物していた。
 その時にふと筆者の頭に浮かんだこと。この男、多分学生、は自分の叫んでいる相手が14歳から戦場のジャングルで生きてきた人間だということを知らない。小さなレストランの厨房にいる冴えない風情の30男が、かつてジャングルの下生えで息を潜め、掠める銃弾を感じ、人を殺すために引き金を引いたことを知らない。仲間も敵も無残に死んでいっていったのを子供の目で見ていたのだ。俺や君がテレビゲームをしていたとのと同じ歳で、このどこぞのアジア野郎はとてつもない経験をしていたのだ。そんなことを考えたら、虫で騒いでいるという事が滑稽に思えてきた。
 
 戦争の時代を生きた自分の爺さん婆さんに感じるのと同じような感覚。戦争という到底想像できない経験の持ち主に感じる畏怖のようなもの。日本で戦争体験というと、特定の記念日に思い返す記憶になりつつある。しかし日常生活で、自分に近い年齢からそれを感じるというのは、海外に住んでからが初めて。同年代で否応なく戦争に巻き込まれた人間が沢山いる。それを思うと、つまらないことで落ち込んだり、腹を立てたりするのが馬鹿らしくなる。思い通りにならないことが多い人生でも、なんと自分は恵まれていることか。
 
 あの時の学生君は、遠くで見物していた別のアジアの糞野郎が、君の後ろ姿とJをたまに思い出してこんなことを考えているなんて夢にも思わないだろう。
 
 ベトナムから来た男はある日いなくなった。相棒とレストランを始めたのかは、誰も知らない。
 





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Posted by ミリタリーサープラス MOBIUS1  at 07:40 │Comments(0)こぼれ話

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